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コード進行

コード進行とは、簡単には和音(コード: chord)の移り変わりのことを表します。和音の順番には特定の法式(流派)にのっとった場合を除くと厳密な決まりは無く、作曲者・編曲者が自由に決めることができますが、中にはよく用いられている特定の順番があり、このページではそれらについて記述していきます。

※ ここに掲載しているコード進行はあくまでも一例であり、これらを使わなければいけないということはありません。また、「○○形」「○○系」という表記は便宜上の表記であり、一般的な用語ではないためご注意ください。解説の記述は特別何かの文献を参考にしているものではなく、個人の見解・感想が多分に含まれているため、参考にする際はその点もご注意ください。

※ 用いられているコードネーム(コード名)に関しては「コードネーム一覧」を、メロディーに合う和音を判定する場合は「メロディー和音判定」をご覧ください。

※ 一部掲載しているサンプル曲はこれらに限り、ご自由に改変して使用して構いません。その際、当サイトの名前などの著作権情報を記載・併記する必要もありません。(そのまま使用せず、編曲等をすることを強く推奨します。) [2013/1/2]

用語・表記について

このページでは説明の都合上、以下の用語や表記を使用します。

表記:

解決(する)
コード進行においては「終わらせる」「結ぶ」「すっきりさせる」などといった音の流れにすることを表します。メロディーや和音を「解決させる」ことにより、そのフレーズにおいて落ち着きや解放感が得られます。なお、「解決させる」とそこでフレーズが完結しやすくなるため、「まだまだ続く」として意図的に「解決させない」和音進行にすることもあります。
導く
コード進行においては「解決する」ための音や和音を想像させる・予測させることを示します。例として「ラ[F] → シ[G] → ド[C]」というメロディーと和音([ ]内のコード)の流れがある場合、「ラ[F]」は「シ[G]」を、「シ[G]」は「ド[C]」を導いている、となります。下記のトニック/ドミナント/サブドミナントには導く・導かれるの関係が存在していますが、同じ「トニック」と「ドミナント」でも導く・導かれるの方向はフレーズ内の場所によって変わってきます。
トニック (T)
ある調においてもっとも安定した和音であり、主にある調における基準(メイン)となる和音が該当します。「ハ長調」(C major、C-Dur)の場合はコードネーム「C」で表される和音[ド/ミ/ソ]はトニックに該当します。また、これと構成音が似ている「Em」[ミ/ソ/シ]や「Am」[ラ/ド/ミ]もトニックとして扱われます。
ドミナント (D)
トニックにつなげる、あるいはトニックを導く和音であり、「ドミナント」→「トニック」とつなげることで「解決」させたりするのに用いられます。「ハ長調」の場合は主に「G」[ソ/シ/レ]が該当します。
サブドミナント (S)
ドミナントを導く和音であり、「サブドミナント」→「ドミナント」→「トニック」というつなげ方がよく用いられます。また、サブドミナントから直接トニックにつなげることもあります。「ハ長調」の場合は主に「F」[ファ/ラ/ド]が該当します。
サブドミナント・マイナー (SM)
短調において、サブドミナントの代わりにそれをマイナーコード化した和音を用いることも多く、それを「サブドミナント・マイナー」と呼びます。「ハ短調」の場合は主に「Fm」[ファ/ラ♭/ド]が該当します。
なお、このページでは便宜上サブドミナント・マイナーをサブドミナントの一部として扱います。具体的には、短調において「S」が含まれているパターンは「S」を「SM」に置き換えることができます。
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、… (ローマ数字表記)
和音を示す際、同じ「C」というコードでも「ハ長調」と「ヘ長調」では役割が異なり、逆にトニックにあたるコードの一つが「ハ長調」では「C」であるのに対して「ト長調」では「G」となります。そこで、相対音(基準となる音からの差を使った方法)を使って音を示すことで表記を統一することができますが、和音の場合は基準となる音を根音とした和音を「Ⅰ」として、2半音上が根音の和音を「Ⅱ」、さらに2半音上が根音の和音を「Ⅲ」、さらに1半音上が根音の和音を「Ⅳ」、… と表記します。なお、「ドレミ」を階名として考えると、「Ⅰ」の根音は「ド」、「Ⅳ」の根音は「ファ」、「Ⅶ」の根音は「シ」となります。
短調の場合は、通常調の基準となる音の和音は「Ⅰm」(マイナー)の和音が使われます。また、短調における階名の「ド」を根音とした和音は「Ⅲ」に、「ファ」を根音とした和音は「Ⅵ」になります。
長調 根音 ファ
ローマ数字 ⅡmⅢmⅥmⅦdim
役割(例) TSTSDTD
コード例 CDmEmFGAmBdim
短調 根音 ファ
ローマ数字 ⅠmⅡdimⅣmⅤ(m)
役割(例) TSMTSMDSMSM
コード例 CmDdimEbFmG(m)AbBb
例: 「Ⅱm7」…「ハ長調」では「Dm7」[レ/ファ/ラ/ド]、「変イ長調」では「Bbm7」[シ♭/レ♭/ファ/ラ♭]です。
※ 短調においては、根音がソ♯の和音「Ⅶdim」と根音がファ♯の和音「Ⅵdim」があり、それぞれ「ドミナント」(D)・「トニック」(T)と扱われます。
小節の区切りなど
以下、コードを表記する際「|」記号を小節の区切りとして使用し、1小節単位でコードを表記しています。ただし、「|」で区切られた範囲が厳密に4/4拍子の1小節を表しているわけではなく、この区切りを4/4拍子の2拍ずつの区切りとして見ても構いません。区切り線が無いのにコード名が並んでいる場合、同じ区切り内で和音が変化することを示します(→ 細分化/引き伸ばし)。
例: 「C | F | G | C」 … 4小節で1小節ごとに「C→F→G→C」と進行することを示します。ただし、これを全2小節として1小節目で「C→F」、2小節目で「G→C」と見ても構いません。
例: 「C | F G C」 … 2小節で1小節目は「C」、2小節目は「F→G→C」という進行を同じ小節内で行っていることを示します。この場合、2小節目で各コードがそれぞれ何拍演奏されるかは示していませんが、別途説明などで補足します。
4の倍数
曲におけるあるフレーズを考えた時、そのフレーズに使う小節の数は4小節・8小節など、4の倍数になることが一般的です(もちろん違う場合もあります)。フレーズを小さいフレーズに分割したときも2の倍数や4の倍数になっている場合が多くありますが、小節数を4の倍数にすると、そのフレーズが聴き手にとっても自然な進行(流れ)に感じられるようです。逆に、意図的に小節数を4の倍数にしないことで、その部分(小フレーズ)を際立たせることもできます。

T-D-T形 (T-T-D-T、T-D-D-T、T-D-T-D)

「トニック」→「ドミナント」→「トニック」の進行です。この進行は通常「Ⅰ→Ⅴ→Ⅰ」の進行であり、おじぎをするときのピアノ伴奏として有名な和音進行はこの和音進行です(C→G→C)。

最初の和音が基準の和音であり、ドミナントを挟んで元の和音に戻るため、短いフレーズ(3つの和音)で和音進行が完結しています。そのようなフレーズではこの和音進行はよく用いられますが、短すぎる場合は「Ⅰ→Ⅰ→Ⅴ→Ⅰ」のように少し伸ばしたりします。また、「Ⅴ」には「Ⅴ7」(セブンス)を使うこともできます。さらに変化させると、「Ⅰ」と構成音が2音共通している「Ⅲm」(マイナー)の和音を使って「Ⅰ→Ⅲm→Ⅴ→Ⅰ」とすることもあります。

一方「Ⅰ→Ⅴ→Ⅴ→Ⅰ」と、間を増やすパターンもあります。この場合、「Ⅰ→Ⅴ→Ⅴ7→Ⅰ」と少し変化を加えたり、「Ⅴsus4」(サスフォー)を使って「Ⅰ→Ⅴsus4→Ⅴ→Ⅰ」とすることもあります。

今のフレーズを次のフレーズにつなげる場合、「トニック」→「ドミナント」→「トニック」→「ドミナント」、あるいは単に「トニック」→「ドミナント」とドミナントで止めて次のフレーズをトニックなどで始めるようにするパターンを用います。

F | C | F (ヘ長調) [T-D-T: Ⅰ→Ⅴ→Ⅰ]
サンプル: [SMF] [BPM=100, 4/4]
G | D7 | G (ト長調) [T-D-T: Ⅰ→Ⅴ7→Ⅰ]
サンプル: [SMF] [BPM=140, 4/4]
Em | B | Em (ホ短調) [T-D-T: Ⅰm→Ⅴ→Ⅰm]
サンプル: [SMF] [BPM=80, 4/4]
A | C#m | E | A (イ長調) [T-T-D-T: Ⅰ→Ⅲm→Ⅴ→Ⅰ]
サンプル: [SMF] [BPM=120, 4/4]
D | Asus4 | A7 | D (ニ長調) [T-D-D-T: Ⅰ→Ⅴsus4→Ⅴ7→Ⅰ]
サンプル: [SMF] [BPM=110, 4/4(slow)]
G | D | G | D (ト長調) [T-D-T-D: Ⅰ→Ⅴ→Ⅰ→Ⅴ]
サンプル: [SMF] [BPM=170, 3/4]

T-S-D形 (T-T-S-D、T-S-D-D)

「トニック」→「サブドミナント」→「ドミナント」の進行です。この進行は通常「Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ」の進行であり、ある始まったフレーズを収束させたり次につなげたりするときによく用いられます。よく見られる自然な和音進行のため、曲の導入でこの和音進行を最初に用いることが多く見られます。

T-D-T形に対する「T-T-D-T」や「T-D-D-T」のように、SやDにあたる和音を増やすパターンも多く用いられます。この場合、T-T-S-Dでは「Ⅰ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ」よりも「Ⅰ→Ⅲm→Ⅳ→Ⅴ」や「Ⅰ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅴ」のように、異なる和音が並ぶように工夫されます。(※T-S-S-D形はT-S-D-T形をご覧ください。)

D | G | A (ニ長調) [T-S-D: Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ]
Bm | Em | F# (ロ短調) [T-SM-D: Ⅰm→Ⅳm→Ⅴ]
サンプル: [SMF] [BPM=130, 4/4]
Ab | Bbm7 | Ebsus4 | Eb (変イ長調) [T-S-D-D: Ⅰ→Ⅱm7→Ⅴsus4→Ⅴ]

S-D-T形 (S-S-D-T、S-D-D-T、S-S-D-D、S-D-T-T)

「サブドミナント」→「ドミナント」→「トニック」の進行です。この進行は通常「Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ」の進行であり、あるフレーズを終わりに向かわせるときによく用いられます(前の和音が次の和音を解決方向に導いているとされます)。その性質から、この和音進行は別の和音進行の続きとして用いられることが多くなっています。「Ⅳ」と構成音が似ている「Ⅱm」または「Ⅱm7」(マイナーセブン)の和音を使った「Ⅱm(7)→Ⅴ→Ⅰ」の進行もよく用いられます。T-D-T形と同様、「Ⅴ」は「Ⅴ7」も使用されます。

T-D-T形に対する「T-T-D-T」や「T-D-D-T」のように、SやDにあたる和音を増やすパターンも多く用いられます。この場合、S-S-D-Tでは「Ⅳ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ」よりも「Ⅳ→Ⅱm→Ⅴ→Ⅰ」のように、異なる和音が並ぶように工夫されます。

S-S-D-D形(または単純にS-D形)は、T-D形と同様次のフレーズにつなげるときに用います。また、S-D-T-T形は後述の部分短調化を行う場合に現れる和音進行の一つであり、次にさらにS-D-T形をつなげることができます(Ⅱ→Ⅴ(two-five)系を使う際によく用いられます)。

F | G | C (ハ長調) [S-D-T: Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ]
Ab | Bb | Eb (変ホ長調) [S-D-T: Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ]
C#m7 | F#7 | B (ロ長調) [S-D-T: Ⅱm7→Ⅴ7→Ⅰ]
Fm | Dm7-5 | G | C (ハ短調) [SM-SM-D-T: Ⅳm→Ⅱm7-5→Ⅴ→Ⅰ]
サンプル: [SMF] [BPM=86, 4/4]
Ebm | Absus4 | Ab | Db (変ニ長調) [S-D-D-T: Ⅱm→Ⅴsus4→Ⅴ→Ⅰ]
F | Dm | Gsus4 | G (ハ長調) [S-S-D-D: Ⅳ→Ⅱm→Ⅴsus4→Ⅴ]
サンプル: [SMF] [BPM=110, 4/4]
G | A | Fm# | Bm (ニ長調) [S-D-T-T: Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵm]

T-S-T形 (T-S-T-S)

「トニック」→「サブドミナント」→「トニック」の進行です。この進行は通常「Ⅰ→Ⅳ→Ⅰ」の進行で、T-D-T形のドミナントをサブドミナントに変えた進行です。サブドミナントはドミナントより和音としての印象(力強さ)が強くないため、曲のフレーズがさらさらと進むような場合に向いています。なお、T-D-T形はそれ単体でもフレーズを完結させることができますが、T-S-T形は単体でフレーズを完結させるには向いておらず、多くの場合他の進行と組み合わせて用いられます。

T-S-T-S形は「トニック」と「サブドミナント」を繰り返す進行であり、あまり抑揚をつけたくないときなどに使うことができます。

C | F | C (ハ長調) [T-S-T: Ⅰ→Ⅳ→Ⅰ]
E | F#m | E (ホ長調) [T-S-T: Ⅰ→Ⅱm→Ⅰ]
F#m | Bm/F# | F#m | Bm/F# (嬰ヘ短調) [T-SM-T-SM: Ⅰ→Ⅳm(on Ⅰ)→Ⅰ→Ⅳm(on Ⅰ)]
サンプル: [SMF] [BPM=140, 4/4]

T-S-D-T形 (T-S-S-D)

T-S-D形の後に「トニック」、あるいはS-D-T形の前に「トニック」を置いた進行です。T-S-D-Tではこれだけでフレーズが完結するパターン(「Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ」など)になり得ますが、さらにフレーズを続けるために「Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm」としたり、T-S-S-Dと変形させて盛り上がりを収束させつつ次につなげたりします。

F | Bb | C7 | F (ハ長調) [T-S-D-T: Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ7→Ⅰ]
G | C | D | Bm (ト長調) [T-S-D-T: Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm]
A | D | Bm | E (イ長調) [T-S-S-D: Ⅰ→Ⅳ→Ⅱm→Ⅴ]
サンプル: [SMF] [BPM=96, 4/4]
A | F#m | D#7 | G#7(♭9) (嬰ハ短調) [T-SM-S-D: Ⅵ→Ⅳm→Ⅳ7→Ⅴ7(♭9)]
※ 「D#7」は「Eb7」と同じ音ですが、この場合は嬰ハ短調のため「D#7」を用います。

T-S-T-D形 (S-T-D、S-T-D-D)

T-S-D形のSとDの間に「トニック」を置いた進行です。この進行はT-S-D形(T-S-D-D形)に近い役割を持っており、小さいフレーズや山を作るときに用いられます。

なお、T-S-T-D形はその次に「トニック」を持ってくることが多いため、「T-S-T形」と「T-D-T形」を組み合わせたものと見ることもできます。

S-T-D形やS-T-D-D形は、その手前の和音進行がTで終わっているときなどに用いられることが多いため、T-S-T-D形の一部として考えることができます。

E | A | E | B (ホ長調) [T-S-T-D: Ⅰ→Ⅳ→Ⅰ→Ⅴ]
Fm | Bbm | Fm/C | C7 (ヘ短調) [T-SM-T-D: Ⅰ→Ⅳm→Ⅰ(on Ⅴ)→Ⅴ7]
F# | G#m | A#m | C# (嬰ヘ長調) [T-S-T-D: Ⅰ→Ⅱm→Ⅲm→Ⅴ]
※ 「A#m」は「Bbm」と同じ音ですが、この場合は嬰ヘ長調のため「A#m」を用います。
サンプル: [SMF] [BPM=100, 4/4]
F | C | Gsus4 | G (ハ長調) [S-T-D-D: Ⅳ→Ⅰ→Ⅴsus4→Ⅴ]

T-D-T-T形 [Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm]

「Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm」の和音進行は、パッヘルベルの『カノン』に代表される和音進行の一部です。「Ⅰ→Ⅴ→Ⅵ」の進行はやや特殊な進行に見えますが、この進行はT-D-T形と見ることができ、実際に聴いても自然な流れに感じます。その次の「Ⅵm→Ⅲm」の進行は、Ⅵmから見てⅢmがドミナントの役割を果たしている(D-Tの進行)と考えることができます。Ⅲm自体はこの調においてはトニックであるため、次のフレーズでサブドミナントやドミナントを誘導しています。

D | A | Bm | F#m (- G | D | G | A) (ニ長調) [T-D-T-T(-S-T-S-D): Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→Ⅲm(→Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ)]
サンプル: [SMF] [BPM=140, 4/4, S-T-S-Dまで含む]
F | C/E | Dm | F/C (ヘ長調) [T-D-T-T: Ⅰ→Ⅴ(on Ⅶ)→Ⅵm→Ⅰ(on Ⅴ)]
Bm | F#m | G | D (ロ短調) [T-D-T-T: Ⅰ→Ⅴm→Ⅵ→Ⅲ]

S-T-S-D形

この形は『カノン』において上記のT-D-T-T形の続きで使われています。それ以外にもT-S-D-T形など、トニックで終わる和音進行の続きにつなげて一つのフレーズを形成するときによく用いられています。

A | E | F#m | B (ホ長調) [S-T-S-D: Ⅳ→Ⅰ→Ⅱm→Ⅴ]
Bb | Am | Gm7 | C7 (ヘ長調) [S-T-S-D: Ⅳ→Ⅲm→Ⅱm7→Ⅴ7]
Em | Bm | C# | F# (ロ短調) [S-T-S-D: Ⅳm→Ⅰm→Ⅱ→Ⅴ]

コードの置き換え

以上で紹介したパターンでは、その例においてほぼすべてで基本的なコードを用いてきましたが、これらのコードの一部を類似のコードで置き換えることでさらに独特の和音進行を作ることができます。

各コードによる置き換えについては「コード(和音)の置き換え」もご覧ください。

※ 以下の例でも「T-D-T形」などの記述を行っていますが、厳密にはこれに当てはまらない場合もありますのでご了承ください。

Bb | A | D (ニ長調) [S-D-T: Ⅵ→Ⅴ→Ⅰ]
S-D-T形のサブドミナントを「Ⅵ」で代用しています。
F | C/E | F7/Eb | Dm (ヘ長調) [T-D-T-T: Ⅰ→Ⅴ→Ⅰ7→Ⅵm]
T-D-T-T形の一部としても見ることができますが、こちらはベース音が半音ずつ下がっていく進行です。この進行の後、「Bbm/Db | F/C | G/B | C7」(Ⅳm→Ⅰ→Ⅱ→Ⅴ7)のようにS-T-S-D形を続けることができます。
サンプル: [SMF] [BPM=100, 4/4]
C | Eb | F | G (ハ長調) [T-(T)-S-D: Ⅰ→Ⅲ→Ⅳ→Ⅴ]
T-T-S-D形の2番目の和音はⅠやⅢm、Ⅵmを使ったりしますが、ここでは「Ⅰm」(ハ長調ではCm)に似た「Ⅲ」の和音を使用しています(ここでは便宜上この和音をトニックとしています)。
Em | A/E | Em | A/E (ホ短調) [T-S-T-S: Ⅰm→Ⅳ→Ⅰm→Ⅳ]
T-S-T-S形の置き換えパターンです。短調の場合通常は「Em | Am(/E) | Em | Am(/E)」(T-SM-T-SM)ですが、AmではなくAを用いることで、T-S-T形特有の流れる和音進行にアクセントを加えています。
F | D7 | C/G | G (ハ長調) [S-S-(T)-D: Ⅳ→Ⅱ7→Ⅰ(on Ⅴ)→Ⅴ]
「C/G」の「/G」を除いて見ると「S-S-T-D形」ですが、この進行の場合「C/G」は「Gsus4」に近い役割を持っており、「S-S-D-D形」のパターンとする方がより適切であると考えられます。つまり、「Gsus4」の代わりに「C/G」を用いた和音進行と見なすことができます。実際、「C/G」は「Gsus4」のDの音をEの音に変えただけの和音になっています。

細分化/引き伸ばし

ここまでのコード例はすべて1小節(1区切り)ごとに和音を変化させていましたが、必ず1小節ごとに変えなければいけないわけではありません。ある小節で使った和音をそのままもう1小節続けてからその次の小節で和音を変化させたり、1小節の間に2つ以上和音を入れて小刻みに変化させたりすることもできます。

Ab | Ab | Db | Eb (変イ長調) [T-S-DまたはT-T-S-D: Ⅰ→Ⅰ→Ⅵ→Ⅴ]
T-T-S-D形ですが、2小節目まではコードを変化させないパターンを使用しています。
F | C | D7 G | C (ハ長調) [S-T-S-D & S-D-T: Ⅳ→Ⅰ→Ⅱ7→Ⅴ→Ⅰ]
S-T-S-D形S-D-T形を組み合わせた形で、3小節目に2つのコードを入れています。これにより、この4小節でフレーズを終えることができ、次のフレーズで別のコードを持ってくることができます。
G | Bm | Em | G7 (ト長調) [T-T-T-T: Ⅰ→Ⅲm→Ⅵm→Ⅰ7]
このコード進行はすべてトニックの和音しか使っておらず、一種の引き伸ばし(コードの置き換えを利用した進行)のように見えます。ただし、「(G |) Bm | Em」の部分をホ短調と見ると「(T-)D-T」となっているため、「T-S-T形」よりは抑揚があります。また、4つ目の和音がセブンスになっていることで、次の和音としてサブドミナントの和音(この場合は C)を誘導しやすくしています。
※ この直後が「C」(Ⅳ)の場合、「Em | G7 | C」が「ハ長調におけるT-D-T形」という和音進行と見ることができます。
※ 後述の部分短調化でも「T-T-T-T」の進行となる和音を挙げています。

部分短調化(長調化) / 部分転調

長調でのメロディーにおいて、用いる和音を同じ調号の短調で使用できる和音進行を使う方法もあります。具体的には、「ニ長調」(♯2つ)において「ロ短調」(♯2つ)で用いられる和音進行「C#m7-5 | F#7 ( | Bm)」[SM-D-T]を用いることができます。逆に短調において長調の和音進行を用いるパターンもあります。また、部分的に短調/長調に変えるのではなく、別の調の和音進行を借用する場合もあります。

なお、部分的ではなくあるフレーズを丸ごと短調化・長調化することもありますが、この場合は転調していると考えるのが自然です。

A | A | G#dim | C#7 ( | F#m) (イ長調) [T-D-TまたはT-T-D-T: Ⅰ→Ⅰ→Ⅶdim→Ⅲ7(→Ⅵm)]
イ長調においてはT-T-D-T形に当たりますが、3小節目~4小節目(5小節目)を嬰ハ短調として見るとS-D-T形(Ⅱdim→Ⅴ7→Ⅰm)に当たります。なお、1~2小節目も含めるとT-S-D-T形(Ⅲ→Ⅱdim→Ⅴ7→Ⅰm)と見ることができます。
Ab | C7 | Fm | Ab/Eb (変イ長調) [T-T-T-T: Ⅰ→Ⅲ7→Ⅵm→Ⅰ(on Ⅴ)]
変イ長調で見るとすべて「トニック」にあたる和音しか用いていませんが、ヘ短調で見るとこの進行はT-D-T-T形(Ⅲ→Ⅴ7→Ⅰm→Ⅲ(on ♭Ⅶ))と見ることができます。なお、この次の和音には変イ長調のサブドミナントである「Db」を続けることができますが、この和音はヘ短調におけるサブドミナント(・マイナー)に当たる和音(Ⅵ)と考えることもできます。
Am | D7 | G | B (ホ短調) [SM-SM-T-D: Ⅳm→Ⅵ7→Ⅲ→Ⅴ]
最初の3小節はト長調の「S-D-T形」(Ⅱm→Ⅴ7→Ⅰ)になっていますが、その次にホ短調のⅤの和音(「B」)を持ってくることで雰囲気が短調に戻ります。もっとも、この和音進行の場合は部分的に長調にしているという感覚はあまり無いかもしれません。
F | Am | Dm | Cm(7) F7 ( | Bb) (ヘ長調) [T-T-T-D-T(-S): Ⅰ→Ⅲ7→Ⅵm→Ⅴm(7)→Ⅰ7(→Ⅳ)]
2番目の例とほぼ同じですが、4小節目に「Ⅴm(7)」が入っています。1小節目~3小節目は2番目の例と同じく、ニ短調で見るとT-D-T形(Ⅲ→Ⅴ7→Ⅰm)ですが、4小節目に「Ⅴm」を入れることで、3~4小節目が変ロ長調で見るとT-S-D形(Ⅲm→Ⅱm(7)→Ⅴ7)となり、次の「Bb」(変ロ長調でⅠ)を導く流れができます。

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その他の和音進行

ここまで様々なパターンの進行を挙げてきましたが、どのような雰囲気の曲・フレーズを作りたいかによって、これらのパターンにとらわれない和音進行を使うこともできます。主旋律の音が含まれているがそれ以外の音は調で使われる音と異なる和音を用いたり、あるいは全然関係ない音で構成される和音を用いたりといったことがあります。多くの場合は「部分短調化(長調化)」「コードの置き換え」に該当しますが、「調のないフレーズ」(無調[むちょう]、インパクトを与えたい時などに使用されます)などではコードネームも存在しないような和音が用いられたりもします。

一方、曲の途中で転調をしたいときはその1~2小節前から(転調前の調を無視して)転調後の和音進行を先行して用いることがあります。

F | GbM7 | F | GbM7 (ヘ長調) [T-(S)-T-(S): Ⅰ→ⅡM7→Ⅰ→ⅡM7]
「Gb」の和音が「F」の半音上であるため、一見調の無い和音進行にも見えます。ただし、「GbM7」の和音からGbの音を取ると「Bbm」の和音になり、「T-S-T-S」のサブドミナントをマイナーに変えた進行(をさらにコード置き換えした進行)と見ることができます。
C C# | D Eb E (?調)
Cを起点に和音を半音ずつ平行移動した進行です。これだけを見た場合は何の調になるのか確実に言うことができません。
サンプル: [SMF] [BPM=120, 4/4 (「E」の後に「D E D C# | C# D C# | C」を続けており、ややハ長調っぽくなっています)]

よく使用される和音進行

ここでは、世の中で比較的多く用いられている和音進行を独断と偏見で紹介します。

カノン進行系

パターン: Ⅰ→Ⅴ→Ⅵm→<Ⅲm>(→Ⅳ) [T-D-T-T]

T-D-T-T形で挙げた、俗に「カノン進行」と呼ばれる和音進行です。「<Ⅲm>」の部分は「Ⅲ」になることもあります。この和音進行を使った場合、多くの場合直後の和音に「Ⅳ」が使われます。

亜種

Ⅰ→Ⅲm→Ⅵm→Ⅰ(7)(→Ⅳ) [T-T-T-T]
2つ目の「Ⅴ」が「Ⅲm」、4つ目の「Ⅲm」が「Ⅰ(7)」になっています。(細分化/引き伸ばしでこの和音進行を扱っています。)

Ⅱ→Ⅴ(two-five)系

パターン例: Ⅱ(m)(7)→Ⅴ(→Ⅰ) [S-D-T]

俗に「two-five」と呼ばれる和音進行であり、S-D-T形の典型例です。「Ⅴ」の根音は「Ⅰ」の根音の4度下であり、「Ⅴ」→「Ⅰ」は解決する流れがありますが、「Ⅱ(m)」の根音もまた「Ⅴ」の根音の4度下となり、「Ⅱ」→「Ⅴ」の部分でも解決する流れができます。

なお、「Ⅱ」は「m」が付かないパターンも多く用いられ、より「Ⅴ」の和音を引き立てる(導く)役割を果たしています。また、「Ⅱ(m)」には「7」が付く場合もあります。

亜種

Ⅲm→Ⅵ(m)→Ⅱm(→Ⅱ)→Ⅴ [T-T-S-D]
「Ⅱ→Ⅴ」は根音が三度上(5半音上=7半音下)に移る進行ですが、それを拡張して「Ⅱ」の三度下である「Ⅵ」、「Ⅵ」の三度下である「Ⅲ」を手前につなげたのがこの和音進行です。「Ⅵ」は「m」が付くことも付かないこともあり、時に「7」などが付くこともあります。
コードを細分化してカノン進行にこの和音進行をつなげている曲もあります。例えば「C | G | Am | Em E | F | Em Am | Dm D | G」などとすることができます。
なお、この進行は部分短調化と見なすこともできます。
Ⅳ(m)→Ⅶ→Ⅵ(m)→Ⅲm→Ⅵ→Ⅱ(m)→Ⅴ→Ⅰ [(S)-D-T-T-S-D]
上記の進行の前にさらに三度下の和音2つ「Ⅳ(m)→Ⅶ」を加えた形です。「Ⅳ(m)」は「Ⅳ」を置き換えた「Ⅱ」をさらに置き換えたもの、「Ⅶ」は「Ⅴ」を置き換えたもの、と見なすこともできますが、次の和音に移るのがすべて「三度上」となるため、Ⅰにたどり着くまでにだんだん解決していくスムーズな流れになります。

Bdim | E | Am | D (→ G) (ト長調) [T-T-S-D: Ⅲdim→Ⅵ→Ⅱm→Ⅴ(→Ⅰ)
「Ⅲm」の代わりに「Ⅲdim」を用いています。「Bdim」の第5音「F」(F#の半音下)が和音「E」の根音の半音上になるため、より「E」を導きやすい形になっています。
A#m7-5 | D#7 | G#m7 | C#7 | F#m7 | B | E (ホ長調) [(S)-D-T-T-S-D-T: Ⅳm7-5→Ⅶ7→Ⅲm7→Ⅵ7→Ⅱm7→Ⅴ→Ⅰ
Ⅳ(m)」の代わりに「Ⅳm7-5」を用いています。「A#m7-5」の第5音「E」(E#の半音下)が和音「D#7」の根音の半音上になるため、より「D#7」を導きやすい形になっています(「A#m」の第5音「E#」が元の調に対して♯の必要な音になるため、半音下げて調の音(スケール)に入るようにするという面もあります)。

終わりのsus4

パターン例: Ⅰsus4→Ⅰ [T-T]

フレーズの終わりで「Ⅰ」を用いる場合、引き伸ばしとしてsus4を用いる和音進行も見られます。例えば「F | G | Csus4 | C」[S-D-T-T形]という形があります。

亜種

Ⅳ(on Ⅰ)→Ⅰ [(S-T)]
「Ⅰsus4」の5度の音を6度に変えると「Ⅳ(on Ⅰ)」になるため、「Ⅳ(on Ⅰ)」を「Ⅰsus4」のように使う場合があります。

Ⅰで終わらない(SやDで終わる)

パターン例: Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅴ (fin) [S-T-S-D]、Ⅳ→Ⅲm→Ⅵ(m)→Ⅱ(m)→Ⅴ→Ⅳ(M7) (fin) [S-T-T-S-D-S]

通常、曲の最後はⅠ(短調の場合はⅠmも)で終わることがほとんどですが、敢えてⅠ以外の和音(ⅣやⅤなど)で曲(またはフレーズ)を終わらせる場合もあります。これにより、曲が終わったときに「まだまだ続く(完結しない)」などといった独特の余韻を残すことができます。

2番目の例は「S→T」と来て「S」になるため一見変な進行に見えますが、「Ⅵm」の代用と見なすこともできます。(「ⅣM7」にさらに9度の音を加える場合もあり、それが加わると「Ⅰ」と同じ音が含まれる和音になります。)

※ 途中のフレーズでこのパターンが出てくる場合は、その直後にⅠなどの繋がる和音が来る場合がほとんどです。

曲の構造

ここまでは主に1フレーズの中での和音進行を扱ってきましたが、それらの和音進行を曲で使用するには、曲の全体的な構造に合わせてうまくあてはめることが重要になってきます。

例えば歌謡曲(J-POPなど)では、

といった曲構造が比較的多く見られます。ちなみにこれは「起承転結」の構造(各下線部分がそれぞれ起承転結に対応)と見ることもできます。この構造を例に、どのような和音進行が使用される傾向があるかを挙げてみます。

イントロ

「Ⅰ」から始まる和音進行(T-D-T-TT-S-T-S、T-T-T-Tなど)を用いたり、サビの和音進行を用いたりします。

Aメロ

「Ⅰ」から始まる和音進行でさらに凝った和音を用いないパターンがよく見られます。これはAメロが曲の初めに来ることが多いためで、いきなり激しい和音進行を用いるとサビが映えなくなってしまうという理由が考えられます。ここの和音進行として「T-D-T-T形S-T-S-D形」(カノン進行)などを使うことがあります。

Aメロの終わりは「Ⅰ」かBメロなど次に続く和音(進行)を置きます。

Bメロ

「Ⅰ」以外から始まる和音進行が比較的多く、部分的に短調/長調にしたり、あるいはここで転調することもあります。具体的な和音進行としては、Bメロの頭から「S-D-T形」やその亜種である「Ⅳ→Ⅴ→Ⅲm→Ⅵ(m)」(S-D-T-T)などを使うことがあります。

Bメロの終わりは「Ⅴ」など、サビに続く和音(進行)を置きます。また、よりサビを引き立てるために引き伸ばしや(サビの頭で)転調を行うこともあります。また、小節数を4の倍数にしないこともあります。

サビ

「Ⅰ」から和音進行を始めたり、「Ⅰ」がメインとなるような和音進行(S-D-Tなど)を用いたりします。ここでも部分的に短調/長調にする手法が用いられるほか、和音の置き換えも多用されます。また、小節を細分化して複数の和音を用いるようにし、サビをよりアクティブな曲調にすることもあります。

サビの終わりはAメロへの繋ぎとして入れる短いフレーズや間奏、エンディングに繋げるために「Ⅰ」や「Ⅴ」を最後の小節に置く場合がほとんどです。

間奏 and/or Cメロ

間奏はAメロやBメロのメロディー無しパターンが入る(楽器のソロやアドリブを入れる場合などに使用されます)こともありますが、それ以外の間奏やCメロでは今まで用いなかった和音進行を用います。部分的な転調ではなく完全に転調するパターンもあり、その転調をそのまま戻さずに次に続くサビを調違いの和音進行にする場合もあります。

エンディング

イントロに似たフレーズを用いて終えたり、直前のサビの延長線上に当たる和音進行を用いたりします。最後の最後には「Ⅰ」を使いますが、色を付けるために「M7」や「6」、「add9」としたり、9度と13度の音を同時に加えたりもします。一方で「Ⅰ」で終わらない形にする場合もあります。

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